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· 約21分

今回読んだ本

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

Book Cover

サマリ

想定読者は、組織で実測測定のルールを定める人・業績目標で定量評価を取り入れようとしている人・および業績目標の評価者で、
「目標達成のための効果的な測定ルールを設定する」、「測定ルールの背景(目的)を見失わなわずに仕事で成果を発揮する」などに役に立つ本です。

測定のあれこれ

測定のメリデメを語る前に、現代においてなぜこれほどまでに測定が流行しているのかを、米国・イギリスの歴史を踏まえて説明しています。

測定基準の繁栄の歴史

産業革命以降に、社会の規模が拡大し、相当な社会的流動性、民族的異種混交が見られる民主的社会になっていったことから、 権力への不信感がつのり、透明性への要求(測定と説明)が高まっていく。それにつれて他者への信頼に悲観的になっていくので、個々の最善の判断に基づいて行動することが許されなくなる。 そのような社会では、判断の基礎に(一見)客観的に思える基準を求めがち。なせなら数値的測定基準は透明性と客観性の印象を与えるから。 そういった背景のもと、もともと工場で用いられた測定が幅広い製造業に採用され、サービス業・教育分野にも広がっていった。


「この定量評価基準は無駄だなぁ。なぜこの基準が今も使われ続けているのだろうか?」と思うことが稀にあります。 この本では「測定執着」に陥っているから、そのような状態になるのだと説明しています。

測定執着とは

  • それが実践された時に意図せぬ好ましくない結果が生じるにもかかわらず、以下信念が持続している状態
    • 個人的経験と才能に基づく判断は、標準化されたデータ(測定基準)に基づく相対的実績という数値指標に代替可能であり、代替したほうが望ましいという信念
    • 測定基準の公開(透明化)により、目的達成を保証できるいう信念
    • 組織に属する人々への最善の動機づけは、測定実績に報酬や懲罰を紐づけることであり、報酬は金銭(能力給)または評価(ランキング)であるという信念

測定執着のデメリット

  • 測定できることの大部分が重要ではない測定に多くの時間が費やされる
  • 測定され報酬が与えられるものは改竄される
  • 測定が効率的だという信念は、それをうまく機能しない場合が多いという証拠よりも強く印象に残る
  • 説明によってのみ責任を果たせるという考えのもと説明責任が流行し、情報公開・可視化が強制され、より多くの文書化、ミッション記述書、目標設定が要求される

目標に対して測定がずれないようにプリンシパル・エージェント理論というものがあるそうです。

プリンシパル・エージェント理論

  • 理論の概要
    • プリンシパルとは主な経営主体(例:経営陣)、エージェントとは主な経済主体(プリンシパルのために代理で活動する人、例:従業員)
    • プリンシパルの利益に反してエージェントが自身の利益を優先した行動を取ってしまうことがある、これを防ぐために、双方の利益を一致させるべき
  • 理論をベースにした企業の対策
    • 従業員の行動は監視・測定されなければならず、その測定は組織についての直接的な知識を持たない人間にもはっきり見えなければいけない
    • 「エージェント」に動機づけをする最も効果的な方法は金銭的な報酬や懲罰であり、これは経験に基づく知識と人間同士の信頼に置き換わるもの
    • 企業の利益は株価に応じたボーナス支給、ストックオプション制度
  • 上記対策の代償
    • 測定しづらい目標(善い行いを教える、世界に対する好奇心を掻き立てる、独創的な思考を育む)が軽視される

報酬は外的/内的に分類できるそうです。

外的報酬・内的報酬

  • 外的だけでなく内的な動機づけも存在する
  • 与えられた仕事の複雑さとそれがもたらしてくれる挑戦・好奇心・楽しさといった内的な精神的報酬
  • 外的報酬(能力給、ボーナスなど)は利益創出が主目的の商業組織で最も効果を発揮する。それかあまり内的関心の対象にならない、組み立てラインで規格製品を作る場合などにもうまくいく
  • ミッション重視の組織が能力給制度を設けて外的報酬を設定しようとすると、報酬に注目が集まってミッションが蔑ろにされる
    • 組織のより大きなミッションのために働くことへの関心を失ってしまう

業界ごとの事例

測定のメリデメについて、大学・学校・医療、警察・軍・金融の業界ごとに事例を紹介しています。
事例は米国およびイギリスの政府の取り組みの歴史であり、自分の立場に置き換えようとするとスケールの大きすぎる話です。
事例だと測定ルール作成者(業界のリーダー層)が、測定対象者全員・および評価結果報告先の人々全員を把握するのは不可能であるケースが大半です。

いっぽう私の周辺での測定事例は、部門のKIP、チームメンバーの業績目標などです。 この場合、部員やチームメンバー間でお互いをある程度知っており、「測定基準を設ける人」、「測定基準に従って実績を出す人」、「測定実績を評価する人」、「評価を説明される人」、「評価によって影響を受ける人」の間でお互いの状況をある程度把握している環境です。 そのため、そこまで信頼関係を悲観する必要はなく、測定基準設定時に改竄を危惧したり、運用で改竄を監視したりは不要だとと思いました。

あと事例紹介の中で書かれていた以下の2つの考え方が印象的でした。

能力給制度が効果的な仕事

  • こなすべき仕事が反復的・非創造的であり、標準化された商品やサービスの生産または販売に関するものである場合
  • 仕事内容に関して判断を求められる可能性が少ない場合
  • 仕事に内在的満足があまりない場合、
  • 実質チーム全体ではなく、ほぼ完全に個人の努力に基づいて測定できる場合
  • 指導(他者を手伝い、励まし、助言を与える)が仕事の中で重要な役割を占めていない場合

→私はシステムエンジニアとして働いていますが、能力給制度が効果的な場面はあまり多くはないかも?と感じました。


透明にすればよいというものではない、秘匿も大事

個人の考えていることが額にデカデカと書かれていて、見るものすべてに丸見えだったとしたら、 内面と外面の堺は消え失せ、それとともに個体性も消失する。 したがって、秘匿の可能性によって表現されるプライバシーは、人が自らを個体として定義できるまさにその能力を護るのである。 さらに自我は露出と親密度のさまざまな度合いを表現することによって特別な関係を構築し得る。 人は社会という空間の中で露出と秘匿を配分し、様々は距離や親密さを操作しながら生きているのだ

→スクラムの3本柱として「透明性」、「検査」、「適用」があるので、オープンにすること、透明性を高めることは善であると考えがちですが、 「個人」、「人間関係」という言葉が生まれる前提には、個として秘匿を持ち、別の個に対して秘匿と露出を調整することで関係を構築するということはもっともな話で、 何でも透明にすればするほど良いってことじゃないんだなぁと再認識しました。

測定のデメリット

本の後半で測定で陥りやすいデメリットをまとめています。 本の順番としては事例紹介→本セクションですが、こちらを先に読んでから事例紹介という順番でも良さそうです。

実績測定に内在的に有害なことは何もない。本書で「測りすぎ」と言及しているのは、人間の成功と失敗を定量化する類の測定である 内的動機とプロ意識に訴えかける形で用いられる場合は、測定は効用を発揮する。陥りやすいデメリットを以下に示す

  • 測定されるものに能力を割くことで目標がずれる
    • 評価される側は何のために指標を設定したのかを忘れて実績を上げることに集中しがち
    • 目標全体のうち指標化されなかった様々な要素については達成しようと考えなくなりがち
  • 短期主義の促進
    • 遠い将来の目標については測定に時間がかかるし測定指標を作り出すのが難しい
      そのため短期成果に集中し長期目線の目標はそっちのけになりがち
  • 測定コストが実務を圧迫
    • 測定基準を設けて運用する際、測定にかかるコスト・実績を評価/説明するコストを忘れがち
    • 「報告責任」によって、測定・評価・説明のコストはさらに大きくなり、本当にやりたい仕事の時間を奪う
  • 効用の逓減
    • 測定開始後は継続的にデータ収集・分析が必要で、次第にコストが増加し限界便益を上回る
  • 規則の滝
    • 測定施工後に起きた改竄・不正を止めるために組織は滝のように規則を作っては流し込む。その結果、組織の機能が鈍化する
  • リスクを取る勇気の阻害
    • イニシアティブやリスクを取る勇気をくじく。無難に慎重に確実にこなせる仕事を粛々とこなすようになりがち
  • イノベーションの阻害
  • 協力と共通の目的の阻害
    • 目標が個々に課せられたなら、助け合うことはせずに、無視または邪魔したりする
  • 仕事の劣化
    • 測定にコストを割かれるので仕事の経験が劣化してしまう
    • 新たに解決すべき問題という挑戦、新しいことに取り組む機会、未知の世界へと足を踏み入れるという興奮が得られない

実績測定を成功させるためのチェックリスト

デメリットの後にさらに実績測定の観点を纏めています。

実績測定の前提

測定は判断の代わりにはならない。測定は以下のような判断を要する

  • 測定すべきかどうか
  • 何を測定するのか
  • どうやって測定するのか
  • 測定対象の重要性を評価し、成果に報酬や評価を紐づけるべきかどうか
  • 測定結果を誰に好評すべきかどうか

実績測定を成功させるためのチェックリスト

  • 1. どういう種類の情報を測定しようと思っているのか
    • 測定対象が人の行動に関するものであればあるほど測定の信頼性は低下する
    • 対象である人間には自意識があり測定に反応することが可能なので、報酬・昇進が関係するとますます測定の正当性をねじまげる可能性が高くなる
  • 2. 情報はどれくらい有益なのか
    • 測定しやすさと重要性は反比例しがち
    • 本当に知りたいことがあって、それを知る代用として何を測定しようとしているのかを自問すべき
  • 3. 測定を増やすことはどれほど有益か
    • 測定実績ははずれ値(極端に効率の悪い者など)特定に効果を発揮する
    • 実績が平均または最高レベルの者を見つけるのにはそれほど役に立たない
    • 測定が役に立つ != 測定を増やせばもっと役に立つ(「限界費用 > メリット」になる可能性がある)
  • 4. 標準化された測定に依存しないことで生じるコストはどんなものか。実績について他の情報源があるか
  • 5. 測定はどのような目的のために使われるのか、情報が誰に公開されるのか
    • データが内部監視用か評価用か
    • 報酬の対象となる目標が、測定される者の目標と合致している限りにおいては、報酬や懲罰に紐づけた実績測定は内的動機を強化に結びつく
  • 6. 測定実績を測る際に生じるコスト
  • 7. 組織のトップがなぜ実績測定を求めているのか聞いてみる
  • 8. 実績の測定方法は誰が、どのようにして開発したのか
    • 現場での直接の経験から来る暗黙知を持つ者に、適切な実績基準を開発する方法を提案してもらうのが良い
    • 実績測定が機能するのは、測定される対象の人々が測定の価値を信じている場合のみだということ
  • 9. もっともすぐれた測定でさえ、汚職や目標のずれを生む恐れがあることを自覚しておく
  • 10. ときには、何が可能かの限界を認識することが、叡智の始まりとなりうる場合もある
    • 問題の透明化が必ずしも解決策の第一歩ではない
    • 透明性は厄介な状況をさらに際立たせるだけで、解決に貢献しない可能性もある

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· 約18分

今回読んだ本

他者と働く~「わかりあえなさ」から始める組織論~

Book Cover

サマリ

想定読者は、リーダー・マネージャーなど他の立場役割の人・組織との対話が重要な役回りの人で、
読むと、正論がまかり通らない複雑で困難な問題への対処方法および心構えを学べる本です。

「正論がまかり通れば苦労しない」と思うことは多々あります。 技術や正論で解決できる問題を技術的問題、 既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことを適応課題であり、 適応問題は双方のナラティブ(役割に対する解釈・一般常識)の違いによって組織と組織の関係性の中で生じます。 この本では、双方のナラティブの違い(わかりあえなさ)を前提とした適応問題へのアプローチ・心構えについて、 誰もが心の中でぼんやりと理解していたものを、論理的に明文化して示してくれています。

「ナラティブ」、「適応課題」とは

「人の立場に立って考えましょう」、「相手を思いやりましょう」など良く言いますが、この本ではそれらを「ナラティブ」、「適応課題」という言葉を使って論理的に説明しています。ちなみにナラティブはもともと臨床心理学の分野の言葉だそうです。

ナラティブとは
物語、つまり語りを生み出す「解釈の枠組み」 ビジネスをする上で「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈 例「上司たるもの/部下であるならば、こういう存在であるべき」という暗黙的な解釈の枠組み、一般常識のようなもの


適応課題が生じる理由
適応問題はある組織から別の組織を見ると一見「間違っている・正しくない」と捉えがちだが、双方の行動・姿勢は双方のナラティブにとって合理的に説明ができる(正しく理にかなった行動・姿勢だと言える)

  • 適応課題:既知の知識で解決できる問題
  • 適応課題:既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題(組織間の関係性で生じる問題)
  • 組織間でナラティブのズレが生じて適応課題が発生する
  • 組織とはそもそも「関係性」
  • 適応課題を解決するには、お互いにわかり合えていないことを認めたうえで、対話によって新しい関係を構築することが不可欠

適応課題を解決する関係性
適応課題の解決は、道具としての関係性から、いかに脱却するか(私とそれから私とあなたの関係になること)が大切。

  • 「私とそれ」の関係性
    • 向き合う相手を自分の「道具」のように捉える関係性
    • 例:相手が自分の考えを通すための道具であり、それが道具として適切に機能していないから、自分の邪魔をする存在と捉えてやっつけてやろうという姿勢
    • 例:自分は安全なところにいて、相手にリスクを負わせるという歪な関係性
  • 「私とあなた」の関係性
    • 相手の存在が代わりが利かないものであり「私があなたであったあかもしれない」と思えるような関係性
    • 自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すこと

適応課題の分類
適応課題は4型に分類される

  • ギャップ型:大切にしている「価値観」と実践の「行動」にギャップが生じるケース
  • 対立型:お互いの「コミットメント」が対立するケース
  • 抑圧型:言いにくいことを言わないケース、何かを言ってしまうと厄介なことに巻き込まれるなどのケース
  • 回避型:痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース

適応課題へのアプローチ

適応課題の解決法を手順として示しています。少なからず仕事で以下のようなことは無意識のうちにやっていることだと思いますが、 明文化して理解することで、メタ認知して、より的確なアプローチができるようになると思います。

ナラティブ・アプローチで「溝に橋を架けるための4つのプロセス」

1. 準備「溝に気づく」

  • 相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく
  • 手順1:自分から見える景色を疑う:技術的なアプローチがうまくいかないことに気づく
  • 手順2:あたりを見回す:自分のナラティブを一度脇に置いてみる
  • 手順3:溝があることに気づく:関係性が「適応課題」を生み出していることを認める

2. 観察「溝の無効を眺める」

  • 相手の行動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る
  • 信頼のおける仲間や相棒と一緒にやるとよい。最低限、自分の頭の中だけで考えず、一度書き出すなどして、客観的に眺められるようにしたほうが良い。
  • 手順1. 相手との溝に向き合う:適応課題に取り組むことを決める
  • 手順2. 対岸の相手の振る舞いをよく見る:相手の言動を観察する
  • 手順3. 相手を取り巻く対岸の状況をよく見る:相手のナラティブを観察する

3. 解釈「溝を渡り橋を設計する」

  • 溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
  • 手順1. 溝を越え、対岸に渡る:相手のナラティブをシミュレーションする
  • 手順2. 対岸からこちらの岸をよく見る:相手のナラティブに基づいて、自分がどう見えるかを眺める
  • 手順3. 橋を架けるポイントを探して設計する:「新しい関係性」を作る方法を構想する

4. 介入「溝に橋を架ける」

  • 実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く
  • 介入は次の観察の入口でもある
  • 手順1: 橋を架ける:実際に行動を起こして、新しい関係性を築く
  • 手順2: 橋を往復して検証する:新しい関係性を構築して、さらに観察する

適応課題あるあるとアプローチの紹介

4・5章では、関係性別に生じやすい適応課題のパターンとアプローチについて紹介しています。 私の今までの経験を振り返ると、うまくいかない場合は「私とそれ」の関係になりがちだなぁと思いました。

同じ組織の中の人と人との間だと抑圧型、回避型が起こりやすい

事例:提案が課長に保留される

  • 観察:課長は部長との間に抑圧型の適応課題を抱えている
  • 解釈:課長が動きやすくするためには何をやったら良いか考える
  • 介入:提案について、非公式で事前に部長に意向を確認してから、課長に話を持っていく
  • 結果:課長は色々な提案を受け入れて実行してくれるようになった

事例:フラットになれる場を設定する

  • 背景
    • 社員は会社にとって未開拓の技術を用いた新サービス立ち上げたい
    • 課長は、可能性よりもリスクを気にするタイプ
  • 介入
    • 課長、部長、さらにその上の本部長に呼びかけ、対象技術に関する勉強会を実施
      • → 観察という視点から極めて有効な方法
      • お互いのナラティブを開示できるフラットな場で、観察-解釈-介入の対話プロセスを回すことができる
        • 対象技術を用いた場合に顧客サービスの向上にどのように貢献できそうか、事業戦略との関係はどうなっているか、各人の視点で話し合える場
        • 各人の視点で、「新サービス立ち上げ」はどのように見えているのか
  • 勉強会を何回か実施した後に、部長に新サービスの提案を持ちかける

ポイント:弱い立場ゆえの「正義のナラティブ」に陥らない

  • 弱い立場の人は、いくらでも人のせいにして逃げ場がある、再起する機会がある
  • それを正当化する言い方が世の中に転がっている
  • 上の立場の人を悪者にしておきやすい
  • いつか自分も上の立場になることを忘れてはいけない
    • その時に部下の話を受け止めて、守れるようになるためには、今から対話して橋を架けられるようになっておかなければなりません。
    • 自分の上司が、さらにその上の上司に橋を架けられないから、生じている問題とも言える

マネージャーがかかえる適応課題は様々

  • 様々な問題・課題
    • 経営層の期待に答える
    • 業績を上げる
    • 部下を育てる、パフォーマンスを上げる
  • 現場を経営戦略を事項するための道具扱いしない
    • 「私とそれ」ではなく「私とあなた」

事例:現場がマネージャーの意向に沿ってない

  • 「経営層の期待に答える」、「業績を上げる」というマネージャーのナラティブから見ると、「現場はわかっていない」となるが、一旦マネージャーのナラティブを脇に置いて現場を観察すると、現場は現場の合理的な理由で今の状態になっていることがわかる

事例:部下が育たない

  • 人が育つ = その人が携わる仕事において主人公になること(当事者意識をもつこと)
  • 部下が陥ってしまうネガティブケース
    • いつも頑張っているのに認めてもらえない
      他者視点の自分の評価に依拠している
    • 仕事に意味を感じられない
      生活のためにつまらない仕事を我慢している
    • 自分が活かされていない
      自分のために組織があるという過度な自己意識

ポイント

  • マネージャーのナラティブ「部下の能力を向上させる」を一旦枠に置いて、部下が自分のナラティブにおいて主人公になれるように助ける
  • 仕事で部下が主体性・能動性がないのは、今の職場のナラティブの中で活躍できる場所を失ってしまっている状態だから。本人自身に主体性がないわけではない
  • 権力の作用を自覚しないとよい観察はできない
  • 「なんでも言ってほしい」と頼んでも、部下は「マジェージャーとしてのあなた」に対して対話して語っているので
  • こちらの意図通り「なんでも」話していると思ったら間違い
  • 権力を持っていることに無自覚だと、自分が見たい現実だけ見ることになる
  • 自らの権力によって、見たいものが見られない、という不都合な現実を見ることが、対話をするうえで不可欠

適応課題アンチパターン

6章では適応課題の陥りやすいパターンと対処法が説明されていました。 上司への迎合、部下への押しつけ、疲労感に支配されるなど、自分でも思い当たる節がありました。。。

  • 迎合:自分の考えを尊重せずに、相手の考え通りに自分の考えと行動を変えることであり、相手への隷属し自ら気付いた問題課題を見えないようにする、つまり諦めること
  • 相手への押しつけ:強すぎる自分のナラティブを、相手に一方的に強制しても、自分と部下のナラティブが違うので、部下はうまく動いてくれない。大切なのは「何をやりたくて、ともに働いているかを問い直す」して「私とそれ」から「私とあなた」へと関係を変えて行くこと
  • 馴れ合い:馴れ合いの関係を維持すべく、抑圧型の適応課題が発生しがち
  • 他集団からの孤立:結果がでず疲労感に支配される

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· 約12分

今回読んだ本

問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術

Book Cover

※著者の方がPodcastで本を紹介しています

サマリ

想定読者は、リーダー・マネージャー・ファシリテーターなど、チームメンバーとの対話が重要な役回りの人で、 読むと、チームメンバーの本音を引き出して建設的に対話・会議ができるような問いかけ作法について、具体的な実践例を交えながら学べる本です。

個人的に対話では論理性を重視しており「相手の感情をいかに刺激するか」は、そこまで重視していませんでした。
相手の懐に踏み込むような感情的対話が苦手というのもありますが、この本では感情的アプローチも具定例踏まえて紹介されおり、非常にありがたいです。

  • 問いかけとは
    • 相手に質問を投げかけ感情を刺激し反応を促進する行為
    • 未知数を照らす「ライト」の当て方によって相手の反応が変化し、「見立てる」、「組み立てる」、「投げかける」のサイクルを回すことで効率的に問いかけができる
  • 問いかけの基本定石
    • 相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
    • 適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
    • 遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
    • 凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
  • 問いかけのサイクル
    • 見立てる:チームとメンバーの状態を良く観察し「見立てる」
    • 組み立てる:見立てに従って、望ましい変化を生み出す具体的な質問を「組み立てる」
    • 投げかける:相手の注意をきちんと引き、意図が正しく伝わるように、細かな表現を調整して質問を放つ。アフターフォローをする

以下では問いかけのサイクルについて概要を示します。

問いかけのサイクル「見立てる」

問いかけの最初のサイクルは観察です。
以下着眼点にで相手の「こだわり」、「とらわれ」を発見します。
発見後の具体的な深堀りは「見立てる」の章で説明されています。

  • 耳を傾ける
    • 何かを評価する発言
      • →何かにとらわれていないか?
      • →こだわりはどこにあるのか?
    • 未定義の頻出キーワード
      • →こだわりはどこにあるのか?
      • →ごだわりはずれていないか?
  • 目を向ける
    • 姿勢と相づち
      • →何かを我慢していないか?

対話の場で直接観察する他に、会議の目標設定などの事前整理も「見立てる」に含まれます。
これは、一般的にいわれる「会議の準備をしっかりやろうね」ということです。
  • 見立ての三角モデルで「必要な変化」を見定める
    • 場の目的:MTGのゴール
    • 見たい光景:チームメンバーがどのような状態になっているのが望ましいか
    • 現在の様子:チームメンバーの現在の状態
  • 場の目的のパターン
    • 情報共有
    • すり合わせr
    • アイディア出し
    • 意思決定
    • フィードバック

問いかけのサイクル「組み立てる」

具体的な手順が以下のように紹介されていました。
私は「方向性の調整」、「主語レベルの調整」などは良くやりますが、やっていないものも紹介されていたので参考になりました。

  • 未知数を決める
    • 何を明らかにするための質問か、相手に何を尋ねたいのかを定める
  • 方向性を調整する
    • 主語、時間軸などを定める
  • 制約をかける
    • 相手の意見を引き出しやすくするため制約をかける
  • 主語レベルの調整する
    • (抽象度:低)個人 - チーム - 組織 - 社会(抽象度:高)

特に、部下や大きく立場が異なる人との対話で「制約をかける」ことで相手も答えやすくなりそうなので、以下テクニックは今後使っていきたいです。

制約をかけるテクニック

  • トピックを限定する → 思考の焦点化
  • 形容詞を加える → 内省と対話を促す
  • 範囲を指定する → 過度な発散を防ぐ
  • 答え方を指定する → 発散と収束をサポートする

「見立てる」で発見した「こだわり」、「とらわれ」に対してどう問いかけを組み立てるかも、体系的に紹介されていました。
カテゴリごとに具体例も多く紹介されており、すぐにでも実践で使えそうです。
特に「仮定法」は部下の視座を上げて対話の幅を拡げるのに有効な手立てだと思います。
  • フカボリモード(こだわりを深堀り、根底の価値観を探るモード)の質問の型
    • 素人質問:みんなの当たり前を確認する
      • 素朴は質問をあえて空気を読まずにぶつける(自分の意見を添える)
    • ルーツ発掘:相手のこだわりの厳選を聴き込む
    • 真善美:根底にある哲学的な価値観を探る
  • ユサブリモード(とらわれを揺さぶり、新しい可能性を探るモード)の質問の型
    • パラフレイズ:別の言葉や表現に言い換えを促し共通言語を再定義する
    • 仮定法:仮想的な設定によって視点を変える
    • バイアス破壊:特定の固定概念に疑いをかける
  • 山型/谷型のプロセス

問いかけのサイクル「投げかける」

会議中に唐突に自分に話題が振られて「えぇ!自分ですか!?質問なんだっけ??」のようなケースはアルアルだと思います。
本章では、対話に参加しているメンバーが、適切なタイミングで対話に集中できるようなテクニックが紹介されています。

相手を対話に集中させるために相手の注意を引く具体的なアプローチ

プッシュ型プル型
頻繁に使いやすい予告 事前に伝えておく共感 相手の心境を代弁する
たまに使うと効果的煽動 前提を大袈裟に強調する余白 あえて間を演出する

言葉の表現の調整方法も多岐にわたり紹介されていました。
一部使ってはいるものの、全く使っていない方法もあったので、取り入れていきたいです。
  • 光の量を増やす:質問の前提や特定箇所の印象を強める
    • 倒置法、誇張法、列挙法、対照法
  • 光の色を変える:質問の意味を拡げ、イメージをふくらませる
    • 比喩法、擬人法、共感覚法、声喩法(オノマトペ)
  • 光を和らげる:質問の言葉のニュアンスをぼやかす
    • 緩叙法(二重否定)
    • 婉曲法(オブラートに包む)

問いかけた直後のアフターフォローについてのノウハウが記載されています。
意見が出ない場合のフォローやっていますが、意見が出る場合はあまり意識していませんでした。
今後は、部下と会話する機会に「意見はでるが本音が語られていない」場合を見極めて、ハードルを下げていきたいです。

「懐に飛び込む」は、形式知化が難しいのでしかたがないですが。もうちょっと具体例のバリエーションが欲しかったのです。

質問に答えやすくする足場かけ(アフターフォロー)

初期反応要因の仮説アフターフォロー
意見がでない場合前提の理解が不足している前提を補足する
※同上他人事として捉えている場合意義を補足する
※同上うまく答えられない場合ハードルを下げる/手がかりを探す
※同上質問から逸脱している場合リマンドする
※同上フォローで解決できない場合組み立て直す
意見が出る場合本音が語られていない場合ハードルを下げる/懐に飛び込む
※同上個性のある意見が得られた場合ポジティブなフィードバックをする

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